リーズ日記
サステイナブル経営総合研究所には、プロジェクトベースで一緒に仕事をする仲間:リサーチフェローが数名います。その中の一人、萩原優紀さんが、この度UKに留学しました。今後、彼のUKでの体験記を、定期的に掲載していきますので、どうぞお楽しみに。
代表 多田博之
日本を出る前に家族、友人、先生、仕事の仲間、サッカースクールの子供たちまで沢山の人に見送られ、イギリスでも同じく快く見送ってもらえるようにしたいと思った。9月13日に日本を発ち、家から寮までで約29時間の長旅だった。家から空港まではなんと仕事先のサッカースクールを管理している方が送ってくださり、父親と共に乗せてもらった。道中では朝日が昇り、羽田空港沿いで朝活をしているような気持ちになった。空港ではわざわざ朝早くから友人3人が見送ってくれ、彼らがくれたスマイルが左胸に描かれている白Tと共に飛行機に乗り込んだ。飛行機は中国東方航空を選んだため、比較的安価だったため、上海(浦東空港)→パリ→マンチェスターと2回乗り換えた。だいたい安ければ安いほど、乗換が多いことが多い。
パリまでは友人おすすめの村上春樹作・1Q84を読んでいたら時間が飛ぶように過ぎ、順調に進んだ。しかしパリからマンチェスターの飛行機が2時間遅れ、大学があらかじめ取ってくれていたタクシーはマンチェスターに着いた頃には既にいなかった。時刻は夜中の0時。日本から持ってきたSIMカードは電波を感知しない。疲れとジェットラグで意識が朦朧とする中、別のタクシー会社のデスクにたどり着いた。パキスタン人の彼は無表情で、近寄りがたい雰囲気があった。勇気を持って話しかけてみたら、彼は優しく今の状況を聞いてくれた。そしてなんと来るはずだったタクシー会社へ電話してくれた。2回状況説明と場所の内容を確認した後、ようやく空港到着から1時間後に、中東系の訛りがあった上に早口のドライバーのお兄さんが向かいに来てくれた。疲れは溜まっていたが、無事につけるか不安で、案外眠くはなかった。車内では日本と違い、お兄さんはイヤホンで楽しそうにずっと友達と電話していた。個人的にその状況が好きだった。長い運転は退屈でストレスが溜まる。だからのびのびと自由に会話をする姿を見て、もうすでにいい国だなと思った。
約1時間半かけてリーズ市内にあるセンチネルタワーという寮に到着したのはいいものの、寮の外観を見たときに唖然とした。茶色い建物は古く、人誰一人おらず、廃墟のように感じられた。寮のエレベーターホールに入る入り口は鍵をかざすとハリーポッターででてきそうな感じでゆっくりと手前から奥に自動で開く。エレベーターはすーっと静かに動き出し、止まるときにガタンと大きい音がする。エレベーターを降り廊下を通過し部屋に入ると、ドアは日本製のようにゆっくり閉まらず、容赦なく強く閉まる。部屋は1人で住むには十分なサイズで収納が多い。ベッドはダブルサイズでベッドマットはあったが、シーツ、布団、枕はなかった。シャワーを浴びて眠りにつこうと思ったものの、気が張っていて寝付けなかった。その日は切り替えて、寝ずに、aikoの曲を聞きながら、できるだけ明るい気持ちでいようとアンパッキングをした。そうこうしているうちに空がオレンジ色に染まり、大学院生活の初日が始まった。
朝から散歩を始めた。まだ9月なのにも関わらずひんやりとした冷たい気候とは違い、リーズにいる人は優しく、温かく、心が広いように感じた。スーパーで買い物をしていた初日、すれ違うローカルのお兄さんは優しく笑顔で微笑んでくれ、沢山食材を持っていた時は代わりに持って、レジに運んでくれる。すごくかっこいいし、ジェントルマンとはこのことかと感心した。
到着日から約3週間オリエンテーション期間で、新しい友達を作る時間、かかりつけ医の登録などのウェルビイング関係、何かあったときに頼るべき学校内の機関、勉強やスケジュールの立て方を教えてくれる授業、学部生や教授とのフィールドトリップなどイベントが盛りだくさんだった。その中で、新しい友達やパートナーが作りやすい環境などと学習に集中できるような居場所づくりを自らできるように整えるシステムが十分にあったように感じる。夕食は毎日友達と作り合うため栄養レベルが高く、国際色豊かな食事ができ、友達に会いたいと思ったらフラットメートのドアをノックするのも1つだし、寮の下にはビリヤード室があるから、孤独を感じることも少ない。
勉強に関して、今までの大学の勉強と違うのは、もちろん授業では100%集中し、すべての課題やグループワークをこなすことを求められるが、学生が個人・主体的に学習することをベースとしている。自らがモチベーションを生み出し動く能力をこの1年で特に養わなければならない。ある1つのオリエンテーションの中で印象深かったのが、アイゼンハワーマトリックス(タスクを緊急度と重要度の観点から分け、優先順位をつけるタスクマネジメント手法)やポモドーロテクニック(仕事を25分間ずつのセッションに分けて、その間に短い休憩をはさんで効率を上げる方法)を使うように推奨されたことだった。こういった学習の方法を丸投げするのではなく、きちんと教えるようにセッションが組み込まれている。このように学生を幅広い観点からサポートする教育システムが整っていて、質が高く、驚くべきことだらけの日々だった。
リーズ大学のサステナビリティ学科は南米・アジア・ヨーロッパのように世界各国から学生が集まっていた。自分と同じく大学を卒業してすぐ入った人もいればコロンビアの石油・天然ガス会社で15年間働いて40歳でイギリスに来た人もいた。その中でも印象的なのが韓国出身のKOICA(JICAの韓国版)で働いていたという新しい彼女だ。初めて会った日から意気投合した。成蹊大学に通っていた時の恩師の多田先生が薦めてくれた本「ネットゼロ」はサステナビリティの分野に興味を持ったきっかけでもある。また、環境分野を率いているパタゴニアのCEOの著書も自分の関心を後押しした。彼女もまた、両方の著書に影響を受け、サステナビリティに興味を持ったという。こんなにも身近に同じ書物を別の国で読まれていたことに驚いた。近年話題になっている、企業のグリーンウォッシング(環境に配慮しているように見せてごまかすこと)に焦点を当てていて、実際にサステナビリティをリードしていることで知られているユニリーバをあえて批判的な目線で見て、本当に良い企業なのかを研究したいそうだ。既に自分の研究したい内容があり、強い思いを感じ、尊敬できる、身近で頼りがいのある人がいるのはすごく心強いことだ。
9月27日に遠足のような形で水族館へのフィールドトリップがあり、そこで始めて挫折を感じた。そこは海の生物多様性を守る取り組みを行っている民間企業で、ファンドを基に多くの海洋生物の保護を行っている。着いて早々、この団体の方の話があり、ワークショップが始まった。海洋生物に関する知識や英語の単語を知らなかったため、話がうまく理解できず、説明中にずっと焦りを感じていた。それでもワークショップは容赦なく始まり、5つの事業から1つ選び、文章を読み理解し、班でそれぞれ発表し、重要度が高い順に並べ替えることが要求された。5つのラインナップはそれぞれ、クモ、マンタ、ブルースポッティッドエイ、マッドスキッパー、ペンギンの保護、硝化装置(水をきれいにする装置)、予算は44,000ポンド。この写真にあるようにそれぞれかかる費用も違うため、様々な観点から分析し、並び替える必要があった。私はクモを担当しましたが時間内に分析し、みんなの前で発表する時間がなく、自信をもって話せなかった。その中でも周りの意見を必死にくみ取り、1番重要なのは硝化装置だという結論に至った。値段はペンギンと同等で高価だが、水をきれいにすることは将来的にも他の生物の保護に役立ち、汎用性が高いという理由だった。しかし、ここで面白かったのはどの観点でどれが重要だと考えるかという疑問だ。講師は様々な専門家にもどれが1番重要かを聞いたそうだ。どの専門家も迷いはなく、選んだという。例えば海洋学者達は硝化装置を選んだ。やはり海に住む生き物によりよい水の環境を与えたいと考えたからだ。逆に、マーケティングチームは珍しく目を引くためクモを選び、ファイナンスチームは旅行者からの目を引くためペンギンを、CEOの目的はお金を確保することなので、その水族館の投資先はサメの保護に力を入れており、サメは生存するためにマンタの存在が不可欠なので、躊躇なくマンタに票を入れた。同じ選択肢の中でもこれだけ多様な選択があるのを面白く感じた一方で、多種多様のステークホルダーと話し合い決めていかないと偏ってしまうから脅威も感じた。改めて今の状況で特にビジネス、NPO、政府、消費者など多様な視点で考える必要性を学んだ。ここが個人的にサステナビリティ分野の面白い分野だと思う。
最後に、やはり友達や家族には本当に助けられた。先ほど書いた通り、このワークショップ中に自分と周りとのギャップを感じて悔しい思いもしたし、不安も大きくなった。周りの生徒は職務経験があり、人によっては動物の権利についてのコンサルティング会社を経てこっちに来たなど、大きな差を感じる。しかし毎日気にかけてくれる家族、日本にいる友達、こっちでの新しい友達は、何でも話を聞いてくれ、心に響くアドバイスをくれる。また、こちらにいる人たちは、直接感謝や思ったことを口にしてくれる最高の場所だ。
これからの生活は、厳しい時が多いと思いますが、周りと支えあって頑張っていきます。次回からはさらに勉強した内容を投稿する予定なので、ぜひお楽しみください。