リーズ日記 その3
イントロ
金曜夜12時過ぎ。冬の険しい風が一段と増して、決して小さくない音を立てる。気温は今までの暖房の設定温度では十分に上がらない。外では獣の雄叫びみたいに騒いでいる人がいる。外からの声も意外と何言っているか聞き取れるようになってきた。眠る前にブログを書く。
両親が空輸便で届けてくれた村上春樹の1Q84の3冊目(全部で6冊)を今読み終わった。情景描写の書き方、人物の特徴の捉え方、入念に書かれた状況説明、彼の作り出す世界観に吸い込まれてしまった。
大学院生活はただの留学と違って、来てから2か月を超えたが、未だに適応中だ。イギリスにいる学生は夜型が多く、朝6時に起きるような人は少ない。フラットが静かになるまで基本的に寝るのを待つから朝型は少しずつ崩れ始め、最近は7時半から8時に起きるようになった。初めての1人・海外暮らしは一筋縄ではいかない。
正直に言って、交換留学の時のような楽しいだけの学校生活ではない。今まで経験したことのないレベルのホームシックにもなっている。原因は複数あると思うが、日本にいたときは、「自分のできることをやる。」のが、「全くできないことを必死に食らいつくように少しずつできるようにする。」の連続に変わったからだ。課題も授業の準備も英語だから何倍も時間がかかる。毎日パソコンと向き合ってるから、いつかスムーズに読み、書き、話せるようになることを望んでいる。
仲のいいフラットメートが2人いてジンとワイシャークという。彼らとはもう家族だと思っていて、ワイシャークの家族愛はすごい。少し帰るのが遅れると「何をしてたんだ。」と沢山の電話がかかってくる。彼が沢山の友達に「ゆうきがいない。」とメールを送ったおかげで、沢山の電話が夜中に鳴った。お母さんを思い出す。
そのフラットメートの友達が言ってくれたのが、「今はつらいけど、これもいい経験になるよ。」って。友達がいてもホームシックというのは不思議だが、本当に起きている。
ジンはものすごく優しい。寮に戻るとだいたい彼が夜ごはんを作っていて、レシピを見てない彼のオリジナルのスープや料理は美味しいだけではなく、沢山の食材が使われているため健康にもいい。この前彼の誕生日だったから祝った。手紙とケーキを送り、すごく喜んでくれてよかった。
朝起きたら、窓のブラインドを見て、太陽の光がブラインドの隙間からこぼれているか確認する。わずかな隙間でも晴れていれば、強い光が差し込む。だいたい朝シャワーを浴び、キッチンで朝食と昼食を同時に作る。昼ご飯は毎日2つのサンドイッチを持っていく。食パンの上に、レタス、ニンジン、トマト、アボカド、ゆで卵、チーズをのせ、最後にケチャップとマヨネーズをかける。緑、オレンジ、赤、黄、白。色のコントラストは作るうえで楽しさを際立たせる。
朝の支度で、起きてから家を出るまで1時間半もかけている。最近参加した刑務所起業論のスピーカーが食事と運動はメンタルヘルスに与える影響が大きいから、この2つは常に心掛けていると言っていた。時間がなくても食事と運動に行くのがプロフェッショナルな人の共通点なのかと思った。
レポート
もちろん課題もある。初めてのグループレポートは、メンバーでリサーチクエッションを出し合い、全員で完成させる必要がありすごく大変だった。1人での作業とは違い、全員が納得できる内容を決め、仕事を分担した。
グループにはイギリス出身の人が3人いて会話がものすごいスピードで飛び交うだけでなく、少し分からない単語後があると話の文脈を見失いやすかった。内容を理解して意見を言うまでに時間がかかるため、すごく苦労した。話したくても、貢献できないもどかしさが辛かった。できるだけ貢献できるように、参考文献をひたすら作るなど、ひたすらメンバーが困っている、やってない箇所を探して手助けをするなど、このプロジェクトに時間を沢山使った。もちろんイギリスでの学校生活は初めてで難しいのは分かっていたが、毎日ひしひしと大変さを感じる。
ちなみにレポートはごみの最終段階を担うLeedsにあるVeolia(家庭ごみを燃やして電気や熱を作り、埋立地へのごみの量を減らして利益を出す会社)のトレーサビリティ(サプライチェーンを通して、企業が製品ライフサイクルの中で生産から消費までの過程を追跡できるようにする)の実現するうえで難しい点とこれを使ったビジネス機会について考えた。そもそもLeedsでの家庭ごみのリサイクル率は39%で韓国は58%と差がある。寮でもせっかく分けたリサイクルできる紙やプラもまとめて一般ごみにまとめているのを見た。
Veoliaはサーキュラーエコノミーを実現するとか、リサイクル率を上げるとか大々的な事を言っているが、実際に家庭ごみのメタルの数%をプラント内で拾い上げ、他はすべて燃やし、エネルギーを作る。Veoliaが提携を結んでいる市議会は埋立地に送るごみの量を減らさないといけない。それは新しい法律のため、埋立地に送るごみの分だけ市議会はお金を収めないといけないからだ。そのため市議会はVeoliaにお金を払い、Veoliaにごみを燃やさして減らす業務を委託している。考えてみるとこの両者がやっていることは、大量消費を促していることになる。毎日大量のごみが来てそれを燃やすVeoliaはサーキュラーエコノミーどころか、この状態を受け入れて儲けている。ここで重要なのが、ホームページを見てもサステナビリティレポートを読んでも、環境に良さそうなことをしているように見せているが、全く現実は違うということだ。Veoliaを責めているわけではなく、こういったことが多く大企業の中で起きているというのが重要な点だ。
今の事業で儲けているVeoliaがトレーサビリティを導入してごみの的確な分別を通して本格的にリサイクル率を上げたり、実際にごみの排出量が多い地域を特定してごみやリサイクルについての教育を行ったりすれば、見かけではなく本質的にサーキュラーエコノミーな社会に貢献ができる。今後トレーサビリティはますます必要になるだろう。
些細なことだが、思い出に残ってること
別につらいことだけじゃない、楽しいこともある。土日はだいたいジムに行ったり、Lidlに買い物に行ったりする。1週間分の買い物をしても25ポンドくらいで収まるからかなり安い。同じ寮のEliasの車で行って、さっと帰ってくる。彼はラップが好きで、特にJIDとケンドリックラマーを好む。そんな彼が何気なく流した曲が藤井風のまつりだった。日本にいたとき、ジャズ(高校1年生からの友人)がよく車で流していた音楽と同じで、すごく懐かしい気持ちになる。
先週の土曜日に彼とジムの後車でOtleyに夜景を見に行き、その景観に想像の10倍くらい驚いた。夜景だけではなく、Otleyは寮から40分くらいで昔の古い町並みが残っていて、静かで閑静で美しい街だった。車から見えるオレンジの明かりやダブリンを思い出させる街並みはリーズにはないものだった。
Eliasがカルボナーラを作ってくれた。4パック分のベーコンをからっとカリカリになるまで炒め、そこにパスタ、卵黄8個、コショウ、トムとジェリーで出てきそうな塊の2種類のチーズを加えたカルボナーラは絶品だった。
相変わらずエドワード図書館の12階からの景色は毎日感動を与えてくれ、少し疲れたときはぼーっと遠くを見つめるのがいい。
もうすでに授業の8週目が終わり、「クリスマスはどう過ごすのか。」とか、「期末レポート始めないとやばいね。」と話すことが多くなった。
大学院生活でサステナビリティ経営を通して、英語で何でも読んで話せるようになるというのが目標の1つだが、すぐに伸びるわけもなく、耐えが必要だということを改めて感じた。授業でもグループワークでも当たり前だが言語の壁は考慮されず、1番できる人のペースで物事が進む。引っ張る存在は自分のペースでできたり、余裕を持てたりするが、毎回食らいつく側は余裕などない。でもこういう環境を日本にいたときは求めていたし、そんな可能性が詰まっている環境は貴重だと感じる。だから焦らずに、少しずつやることが大切だと気づいた。
Reference List :
(1) https://www.leeds.gov.uk/residents/bins-and-recycling/waste-strategy
(2) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0956053X18300084