リーズ日記 その2
生活
季節は秋になって、エドワード図書館から見える木々は鮮やかな緑から徐々に黄・赤・赤茶と日々変化している。枯れ葉は地面を覆い隠すほどはないものの、これから本格的な寒さがやってくる予感がした。リーズの天気は基本的に曇りや雨が多いから、晴れると思わず写真を撮ってしまうほど珍しい。
最初の1か月は学校から渡される膨大な情報量で頭がパンクし、自分のできる範囲のことを選ぶのに苦戦していたが、基本的に時間を勉強に費やすことにより、自分のペースが確立してきた。少しずつ一人でいる時間を増やしてみたり、逆に金曜日の夜は寮の友達とビリヤード室で遊んでみたりとリフレッシュを含めながら、上手くバランスを保ちながら生活をする余裕まである。
この前「学校ストライキ」でよく知られる環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんのドキュメンタリーを見た。(1)グレタさんはルーティンを大事にしていて、この大切さを身にしみて感じる。毎日どこに行って、何を考えて、何を食べて、誰と関わるか。毎日感じることや経験することは違うけど、毎日やりたいことができる環境は必要だ。朝7時に起きて、図書館で予習して、昼は前日に作っておいた弁当をだいたい1人で食べ、授業が終われば友達と図書館に戻りお腹がすくまで勉強をする。寮に戻ったらフラットメートと夜ご飯を食べ、だいたい10時から11時には寝る。毎日微妙に違うけど、だいたいこんな感じだ。一見刺激がなく淡々としているように見えるけど、このサイクルがあってこそ、安心して学校生活を送れる。
ゲーム
生活に大きな変化はないものの、毎日知的刺激を受ける。授業ではレクチャー形式の講義授業に加え、セミナーやワークショップと呼ばれる主体的に議論したり、様々なフレームワークを使って自分の考え方を整理する時間がある。
環境・サステナビリティビジネスの授業の中で特に面白かったのがロンドンのホテルの温室効果ガス(GHG)の排出量を7年間で50%減らしながら、利益を上げるために何に投資をするか考えるゲームだ。毎年3つの新しい投資と従業員と消費者教育にいくらお金を使うかを入力する。例えば初年度は長期的なGHGの削減を狙って投資額は高いけど、屋上でのソーラーパネルの導入を選んだ。ロンドンのホテルの場合は、SCOPE1(ホテルで出る排出)に関して、お客さんの送迎のために使う車のガソリンのみだから、割合は数パーセントのみしかない。一方で、SCOPE2(購入した電気から生じる排出)とSCOPE3(原料調達から製造、物流、販売、廃棄に至る、企業の事業活動の影響範囲全体から生じる排出)が約半分ずつを占めていた。だから初動として、比較的取り組みやすいSCOPE2の観点から、ソーラーパネルの導入や電球をLEDライトに変えたり、エアコンシステムのアップグレードをしたりするのが効果的だった。
また、従業員と消費者の教育にいくらお金を使うかは、悩ましかった。以前リーズ大学が開催した就活説明会でユニリーバが来ていたから人事部の人に話を聞いてみた。ちなみにユニリーバは「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」という目的を掲げ、この分野を率いている会社の1つだ。しかし、この分野に志がある人を採用すべき人事部の人でさえ、会社の目的や取り組みはあまり知らず、少し残念な思いをした。だから従業員の関心がなくても成り立つのではないかと思いそこまでの投資は行わなかった。
逆に消費者教育に関しては、GHGの削減に直接関与するのではないかと感じた。ネットゼロ(大気中への温室効果ガスの排出量を「ネット=正味(排出量から森林吸収量等を差し引いた合計)」でゼロにすること)の達成を目指している企業はお客さんのロイヤリティを獲得するだけでなく、実際に泊まる際に、電気やエアコンはこまめに消したり、食事ではビーガンを選んだりと小さな積み重ねでGHG排出量の削減が見込める。
さらに投資の1つにチーフサステナビリティオフィサー(CSO)を雇うかという欄があり、どういった影響があるか考えた。まず思いついたのは、世界情勢は変化が激しく、サステナビリティの分野にとって2週間は長い期間で専門家が助ける必要があることだ。(2) 例えば、大統領選挙でカマラ・ハリスになればアメリカがパリ協定に残りEVsへの投資などの温暖化対策が推進されると考えられるが、トランプになれば石油天然ガスを掘り、温暖化対策は少なくなることが予想される。(3)そうなった場合、会社の取り組みも大きく変わることになる。
興味・関心
最近ずっと考えていたことがある。リサーチプロジェクトの授業でこの一年間で情熱を捧げられるリサーチクエッションを今から考えるようにと言われた。自分にはまだそんなものはないと思っていたけど、起業論の授業で使ったバードインハンド手法が自分の特徴(性格)・何を知っているか・誰を知っているかの3カテゴリーを使った新たなビジネスアイデアを作り出すフレームワークのおかげで、自分の興味や関心をはっきりさせることができた。
そこで大きく分けて二つの関心に絞った。一つ目は中小企業(SMEs)に興味がある。大学1年生の頃に地元の整骨院が営んでいたお弁当屋さんで働いていて、お互い好き者同士、毎日家族のようにゆったりと時間を過ごした。朝からがちゃがちゃと騒がしいキッチンで、あーでもないこーでもないと楽しく笑いながら、お弁当を作った。仕事なのか、仕事ではないのか。そんなアットホームで暖かい場所が好きだった。また、大学3年生の時にはじめたサッカーのコーチとしての仕事を通して、沢山の人と出会い、子供から大人まで幅広い人との仕事ができ、学ぶことが多く、そして楽しかった。一人一人の性格や特徴を考えて仕事を振ってくれたり、嫌だったことの話も聞いてくれたりした。この思い出を考えると、もっとこういった人達と日常的に関わり、何か手助けができないかと思って、心が熱くなった。
二つ目に関心があるの、サステナビリティ経営の分野だ。この考え方に出会ってから勉強への意欲が増大し、イギリスに来てしまったほどだ。その中でもCSR(企業の社会的責任)というビジネスモデルに一番惹かれた。この考えは会社が経済的な利益のみを考えるのではなく、環境や社会問題をメイン事業に組み込むビジネス戦略だ。データによると、70%の消費者はその会社が環境や社会問題に対しての責任を取っているかを知りたいと思っており、75%の消費者は買い物をするときにその会社がその消費者が気にしている社会問題をサポートしているかを考えている。(4)今、CSRが求められているのだ。
実際にCSRを取り入れている大企業で言うと、アウトドア系のアパレルブランドとして知られるパタゴニアは社会企業として有名だ。ファッション産業は世界の炭素排出の2~8%を占める中で、(5)環境負荷が大きい事業が環境保護に参画するというのは斬新だ。この企業は環境分野だと年間の売り上げの1%を自然環境の保護と回復に寄付し、同じ服を長く着られるように服の修復にも力を入れている。社内でも従業員がパタゴニアの価値観を共有できるように環境問題や社会活動に参加しやすい体系をとっている。(6)
創設者はハイキングが好きなのに加えて環境保全に情熱があり、パタゴニアを作ったのだ。簡単に考えれば、「ハイキング×環境保護」といった感じだ。関係性を見出すのが難しい2つの要素でもアパレルというアイデアを介して、新しいビジネスチャンスを作り出すことができる。
この前起業論のバードインハンドの手法で自分の知っていることをまとめていた時に、サッカーとサステナビリティというワードが浮かび、サッカーを子供に教える会社がサステナビリティ経営の考えを取り入れたら面白いなと思った。例えばサッカーグラウンドは人工芝が未だに多く、摩擦による意図的ではないマイクロプラスチックの発生が問題になっている。この物質は主に分解されずに海中に漂うため、健康や人体への悪影響が懸念されている。そこで紙の原料から作られた人工芝などの導入を支援する案が浮かんだ。(7) 現在こういった新しいアイデアは金額が高く、購入は難しい。グラウンドは基本的に借りているため、そこで例えば、利益の何割かをその導入のために寄付することを促進するようになれば、環境への影響だけでなく子供への健康の影響が少なくなる。環境への負荷は人によってはイメージしづらいが、子供の健康は一番大事だ。こういうアドバイスができたらすごく実用的だなと思う。こういったコンサルティング会社を中小企業向けに作って、特定の社会問題に取り組んでいる企業の間との架け橋になりたいと思った。
中小企業のCSRへの取り組みは先進国でも未だに少なくニッチな市場だから予想されるリスクやどのくらいのお金が必要かなど取り入れて考える必要があるなと思った。フレームワークを通してSMEsとCSRという2つの興味に絞り、考えて、調べて、固まったものを友達や教授に共有してフィードバックをもらい、また考え直す。このサイクルがすごく楽しい。
終わりに
大学院生活は授業以外での自習時間が長い。だからこそ深く考える力がこの1年で伸びそうだなと思った。今まで経験してきた良い思い出がイギリスに来ても最高のインスピレーションとして生きてくる。同じフレームワークを使っても、同じ授業を受けても、人それぞれ全く違うアイデアが浮かぶ。もう既に来てから1か月半。早すぎる。あっという間というのは分かってるけど、それ以上に早い印象。
今回が2回目の投稿となります。今回はサステナビリティ経営の分野の内容を多めにしてみました。参考文献は下にまとめました。もし興味がおありでしたら、ご覧ください。何かこのブログを読んで、得られる部分があればと思います。また次回の投稿もご覧いただけると嬉しいです☺
参考文献(簡単に参考文献まとめました。文章中の番号と一致しています。)
- BBC.2021. I Am Greta. [Online]. [Accessed 16 October 2024]. Available from: https://www.bbc.co.uk/iplayer/episode/p090xz9z/i-am-greta
- Seiji, K.2021. The future of Chief Sustainability Officer. Institute of International Finance. Deloitte
- NHK.2024.What is Mr.Trump`s energy policy? [Online]. [Accessed 27 October 2024]. Available from: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240620/k10014487091000.html
- Goodworld.2022.A guide to CSR for small & mid-sized enterprises.[Online]. [Accessed 26 October 2024]. Available from: https://goodworldnow.com/articles/a-guide-to-csr-for-small-mid-sized-enterprises
- Geneva Environmental Network.2024.Environmental Sustainability in the Fashion Industry[Online]. [Accessed 26 October 2024]. Available from: https://www.genevaenvironmentnetwork.org/resources/updates/sustainable-fashion/
- Patagonia.2024. 1% for the planet. [Online]. [Accessed 26 October 2024]. Available from:https://eu.patagonia.com/gb/en/one-percent-for-the-planet.html?srsltid=AfmBOooiyugf6Sj1ic4YYEvqQbo0ntIGUgxgQ5zdTSqfCok_zx1s7vcZ
- Matsui, R. Suzuki, M.2024.Artificial turf is made of paper, reducing pollution.NikkeiShimbun. [Online]. [Accessed 26 October 2024]. Available from: https://www.nikkei.com/article/DGKKZO84037550Q4A011C2TB3000/