リーズ日記 その4
はじめに
本格的に冬になり、雪が降るのも今年で3度目となった。リーズの冬は0℃を下回ることは少なく、比較的過ごしやすい。シティーセンターではクリスマスマーケットやアイススケート場が催され、普段とは少し違う街並みに変わった。
クリスマスイブから3日間ウェールズのレクサムにあるホストマザー(カリス)の家にジョニーとお邪魔した。ジョニーは台湾出身の気の合うクラスメートだ。リーズからレクサムに電車で約3時間かけて移動し、レクサム駅に車でカリスが迎えに来てくれた。レクサムは静かでのどかな住宅地が続く。家に着くと、玄関では赤のリボンや小さな銀の紙で包装されたプレゼントなどが飾られた、中ぐらいのクリスマスツリーが出迎えてくれた。この思色と赤土色のレンガがランダムに組み合わさった外壁の家では、既に83歳を超えたカリスが犬のウィリアムと住んでいた。ウィリアムはおとなしく、カリスが立ち上がるとパッと起き上がり、カリスの後ろをとことこついていくような子だ。
24日と25日は家でのんびりと飲んで食べて過ごした。クリスマスカラーを基調としたダイニングテーブルの上に白い皿、赤いナプキン、ワイングラスが置かれていた。1日目はポルトガルでよく食べられるというエビとホタテがメインのトマトスープパスタとココナッツが入ったエビの天ぷらだった。日本の天ぷらとは全く違ったが、美味しく、合計で5つ食べた。2日目は昼の12時からクリスマスモードが始まった。カリスは昼からディナーだよと言うから少し困惑したが、ウェールズのクリスマスは昼から始まると初めて知った。ドムとティムが来てブランディーのカクテルで乾杯し、2時から本格的にディナーが始まった。その日のメニューはアニメで見るような大きなチキン、Pigs in blankets (ベーコンで巻かれたソーセージ)、グリーンピース、煮たニンジンだった。カリスの好みは白ワインで沢山のストックがあった。ドムはあまり喋らなかったが、お父さんのティムがその分話した。彼からはウェールズの政治の話を聞いたり、スペインに家族で住んでいた時の話をしてもらった。彼はあまり多くを求めず、45歳で退職し、静かにウェールズに帰ってきて、今まで暮らしているのだと言っていた。
26日はティムがTrevor Basinに連れて行ってくれた。昔は石炭の採掘場として栄えていたらしいが、今では辺り一面緑で覆われていた。道中の車の中からは太陽の光が反射している山と平野が続いていた。羊が大草原の中で草を食べたり、ぼーっと外を眺めたり、昼寝をしたりしていた。その場所はおとぎ話のように美しく、自然とウェールズの昔から残っている建物が合わさり、フェアリテールの世界のようだった。そこでは、ランゴレン運河を横切るようにポントカサステ水路橋があり、そのうえを小型の船が行き来していた。その船の中では生活をしている人もいて、船が動くたびに観光客がカメラのシャッターを押していた。
市内のランゴレンに着いてから真っ先に目に留まったのがビンテージショップで、赤枠の窓と看板の小さな店だった。店員さんが奥のカウンターで鼻歌を歌いながら、座っていた。クリスマスソングが流れ、服が綺麗に並んでいた。そこで1番気に入った赤の帽子とプレゼント用にマフラーを買った。
お腹が空いたから、そこから近い川が見渡せるカフェに入り、ラムのサンドイッチを注文した。思ったより大きなサイズだったが、案外食べることができた。店を出ると辺り一面霧で覆われていた。犬の散歩をする女性、観光をしにきたであろう家族連れが歩いているのは見えたが、遠くにあるはずの山は隠れてしまった。
家に帰ってからは、ドムとティムとカリスにお別れをし、手紙を渡し、次の日の早朝にリーズに戻った。
課題
クリスマス休暇から明け、学校もないため、勉強や体調面のケアなどが自分のペースでできている。課題は起業のアイデア作りについて3000文字とイギリスの洪水適応についての3200文字の締切がすぐに迫っている。
起業論の課題で人の性格がアイデア作りや企業チャンスを見つけるのにEmpathy(他の人の感情・苦しみ・経験に気づき、理解し、心を開いてくれたことに対して感謝する能力)がどういうふうに役立ったかを書いた。こっちに来てからは心が広く、Empathyがある人に支えられることが多いと感じる。特に自分の寮では、全員が親元を離れ、慣れないイギリスの環境で暮らしている。上手くいかないことが多い時や不安や恐怖を感じるときは人といる時間が必要になる。夜ご飯を一緒に食べよう、ジムに行こう、勉強をしようというように人と会う時間は自分のその時に感じる負の感情を和らげるだけでなく、次の日同じように朝起きて、図書館に行く活力になる。人が持っているEmpathyという能力はお互い助け合って、コンスタントに頑張る鍵だなと感じる。ちなみに連絡手段用にWhatsAppとLineは使っているが、他のSNSを辞めてから1年くらいが経つ。今までSNSやゲームに使っていた時間が、人と会う時間、ジムに行く時間、料理をする時間、ブログを書く時間と本当に楽しい時間が増えたように感じる。
一方で、洪水適応の課題は、個人の認知的な要因(洪水の経験・責任感・コミュニティへの貢献度など)と感情的な要因(将来起こるであろう洪水の不安、恐怖、心配)が個人の洪水適応モチベーション・行動に影響をしているかを調べた。元々大きく考えて、洪水に対する認知・感情的要因が大きいほうが適応するためのモチベーションは高いのではないかと思っていた。つまり、負の感情は人の洪水適応行動への意欲を掻き立てると予想したということだ。洪水適応策の例で言うと、家の底の床を高くしたり、洪水保険に加入したり、サンドバッグを買うなどがあった。実際に調べてみると、不安や恐怖などの強い負の感情を抱いている人の洪水適応モチベーションは低いということが分かった。あまりにも強い負の感情は人を動かなくし、停滞させる。逆に小さい負の感情を持っていてさらに自分はできると自信がある人は洪水適応策を多く行っている傾向にあった。日常生活で少し考えてみれば、課題怖いなと言っておきながら、どこか自信で満ちているような人は1番努力するし、膨大な時間を費やす傾向がある気がする。
少し気になったCOP29について
国際連合気候変動枠組み条約国会議(COP)の2024年はアゼルバイジャンのバクで行われた。この会議の目的はIPCCが提言した恐ろしい災害が頻繁に起こる温暖化のギリギリの、産業革命時を基準とした1.5℃未満に抑えることを目指し、また気候変動の影響を受けやすい途上国や先住民族の人たちをサポートすることだ。ちなみにBBCによると2024年の平均気温は1.6℃に達しており、かなり厳しい状況が見て取れ、COPはこれについて話し合う重要な会議だということがわかる。
今回のCOP29はFinance COPと呼ばれた。COP29では2035年までに途上国に毎年気候変動対策資金として2050年までUSD 300 billion (47兆円) が支給されることになった。ものすごく大金に感じられるが、途上国が求めているUSD1.3 trillion(204兆円) には程遠い。基本的にそのお金は今まで多くの温室効果ガス(GHG)を排出してきた先進国が多くを負担する。
COPのことを考えてて1番気になったのが、どういうふうに途上国でそのお金が使われているかだ。ザンビアのケーススタディーによると、都市部では人口が増え続けており、病気が流行ったり、人が行き場をなくしているため、政府は国民を田舎に引っ越すように促している。それと同時に、気候変動からの大規模な干ばつの影響で地方の仕事に問題が起きているため都市部に人が移動している。この悪循環を止めるために、干ばつを防いで水を確保することを助けたり、農家が持続的に作物を育てられるようにその気温に適した作物に変えたりする取り組みををこの補助金を基に行っている。しかし、計画から実行までに時間がかかったり、支援金が十分でなかったりと課題が山積みである。人権から環境までを守る取り組みには様々な状況が複雑に絡んでいるため、さらに沢山の支援金と導入する人の数はますます必要だと感じる。
食べ物について感じたこと
イギリスに来てから、インド人、中国人、韓国人と食卓を共にすることが多く、食事文化の違いを感じることが多くなった。フラットメートの一人はムスリムで豚やアルコールが禁止されており、同じ料理をシェアすることは難しく、ヒンドゥー教の友達も豚をあまり好まない傾向にある。逆に日本、韓国、中国人は同じような食文化を好み、特に困るようなことはない。サステナビリティを学んでいるのもあると思うが、友達のイギリス人はベジタリアンやビーガンなことが多い。ビーガンになったら体調面が気になる人が多いと思うが、そういう人に限って、毎日図書館で勉強していて、健康で、ジムによく行く。ちなみにベジタリアンは肉を食べないが、卵、ミルクや蜂蜜は摂る。逆にビーガンは動物や、動物から摂れるすべてのものを食べない。
朝食の時間にだいたいBBCのGlobal News Podcastを聞くのだが、その後にたまたまアルゴリズムで流れてきたのが培養肉の可能性についてのTed talkだった。そのプレゼンテーションの中で、培養肉は動物の細胞を体外で組織培養することによって作られ、クリーンミートの1つとして考えられている。生産方法としては、ラボや工場で動物の細胞に栄養を与え、最後に肉っぽい形にする。基本的な食品産業の環境負荷については、3分の1のGHGが食べ物から来ており、その半分を畜産産業が占めている。アメリカの40%の土地は農業・畜産が占領している。また伝統的な畜産がなんと16%のきれいな水を消費する、これはアメリカの家庭が使う水の量に相当する。培養肉は広大な土地も、GHGも削減でき、100億人の人口にも対応できるということが言われており、注目を浴びている。そして、倫理的な理由で動物を食べない人にとっても、もしかしたら一つの選択肢になるかもしれない。
しかし、シンプルに消費者として、ラボで作られた肉に対して少し恐怖を感じた。Ted talkの議論と違って、環境負荷に対してはTrinidadによると、培養肉の生産プロセスの中で大量の電気、水、使い捨て製品を消費し、現段階で環境に優しいとはいえないそうだ。健康面に関して、少し考えてみれば、動物の細胞を取り出し、大量の化学薬品を加えて細胞を成長させ、品質管理や肉っぽく見せるための形成作業にさらなる化学薬品を加える過程からすると、質がよいとは言えない気がしていた。Powellによると、生産過程の中でバクテリアなどの雑菌混入が見られ、それを安全に除去するためにも食品管理安全規制や危険度分析が鍵になるという。しかしそれらの規制は未発達なため、衛生的に完璧ではないことがうかがえる。現在ではアメリカとシンガポールで培養肉が正式に承認されたが、規制の少なさや、研究の量からしてもまだ日常的に消費するレベルには達してないと感じる。
もちろん私たちが普段口にしている、例えば鶏肉は、不衛生な環境で生活しており、また早く成長させるために大量の薬品と体に合わない食べ物を摂取されて育つ。生後間もない鶏は早く成長させられ、体の機能が追い付かず、立てないものもいる。鶏の生産過程をビデオで見たときは衝撃を受けたが、これが大量生産できる理由でもある。オーガニックなものを除けば、安全面に対しては疑問が残るが、従来から食べられてきた食べ物の方が培養肉より長い歴史からして安全だとは思う。
他のタンパク質を摂取する手段として、虫が挙げられる。日本では従来からイナゴの佃煮が食べられ、スーパーなどでも見かけるため、西洋の文化に触れている人と比べて馴染みやすい印象がある。例えばコオロギは近年注目され始めていて、牛と比べて12倍少ない飼料で同じ量のプロテインを作ることができ、また食物繊維が豊富に含まれている。また成長するのに時間がかからないため、生産性も高い。競争相手としては植物ベースのナッツや豆が環境負荷の小ささからも挙げられるが、栄養価とタンパク質の量からすればコオロギが上回っている。アニマルウェルフェアの観点からしても2,3日かけてゆっくり凍らすため、牛や豚と比べ、痛みが少ないと言われている。
問題点としては、貝や外骨格アレルギーに該当する場合があることがある。また、動物を食べないようにしている人(ベジタリアンやビーガン)やムスリムやユダヤ教などの宗教上の理由で制限がある人に対して虫が認められるかが議論されている。実際、これらの定義は人によって違うため、世界的基準は少し曖昧だ。ベジタリアンの中でも魚を食べる人はいる。消費者の観点からすると、そもそも「なんとなく嫌な感じがする。」というようなイメージの悪さがあり、企業はメディアなどを通してイメージを変えるよう努力している。
西洋の店やオンライン上で馴染みやすい製品が揃っている。例えば、Bugsolutelyが出しているコオロギをパウダー状にしたパスタなどは、普段私たちが食べている食べ物の中に虫が含まれている。また、Exoが提供しているプロテインバーはこれもコオロギのパウダーを使用している。
食品業界全体としては、まだまだ小さいが2023年までにUSD 1.181 billion(1862億円)に達する。個人的に、虫が食料不足を救うなどと確か2年くらい前に言われていたが、品質に問題がないのであれば、食品にタンパク質源として含むのは良いと思った。
最後に
今は課題執筆と試験の期間の中で、自分で時間をコントロールでき、自分のペースでゆっくり課題をやっている。健康面ではこっちに来てから1番良く、睡眠は毎日8時間取り、週に3回ジムに行くことができ、図書館に9時から17時まで毎日行けている。今までは研究方法に時間が奪われていたものが、少しずつ慣れてきて、大学でアクセスできる豊富なジャーナルやリソースを使って自分の調べたいものを探す余裕も出てきた。1月のリーズは晴れることが多く、十分な日光も浴びることができている。留学生活は精神的に上がり下がりがあって当然だとは思うけど、できるだけ不安やプレッシャーを減らすことが、長く健康で、コンスタントに勉強できる鍵だなと思う。
下に参考文献を貼ったので興味がある方はぜひ見ていただきたいです。また(10)の鶏の生産過程においては結構驚くべきことだと思うので、時間がある方はぜひリンクからアクセスしてみてください。
Reference list
(1) 2024 first year to pass the 1.5C global warming limit https://www.bbc.co.uk/news/articles/cd7575x8yq5o
(2) Clark, P. (2016, March 7). Rapper Nas and a top chef want to feed you crickets. Bloomberg News. Retrieved from https://www.bloomberg.com/news/articles/2016-03-07/exo-cricket-protein-bars-closes-series a-with-rapper-nas-top-chef
(3) COP29 and Wales’s progress towards net zero https://research.senedd.wales/research-articles/cop29-and-wales-s-progress-towards-net-zero/
(4) COP29: What you need to know about the global climate summit https://www.amnesty.org/en/latest/news/2024/11/cop29-what-you-need-to-know-about-the-global-climate-summit/
(5) Eshel, G., Shepon, A., Makov, T., & Milo, R. (2014). Land, irrigation water, greenhouse gas, and reactive nitro gen burdens of meat, eggs, and dairy production in the United States. Proceedings of the National Academy of Sciences, 111(33), 11996–12001.
(6) Eshel, G., Shepon, A., Makov, T., & Milo, R. (2014). Land, irrigation water, greenhouse gas, and reactive nitro gen burdens of meat, eggs, and dairy production in the United States. Proceedings of the National Academy of Sciences, 111(33), 11996–12001.
(7) Mekonnen, M. M., & Hoekstra, A. Y. (2010). The Green, Blue and Grey Water Footprint of Farm Animals and Animal Products (Vol. 1). Delft, the Netherlands: UNESCO-IHE Institute for Water Education.
(8) Moscato, E.M. and Cassel, M., 2019. Eating bugs on purpose: Challenges and opportunities in adapting insects as a sustainable protein. SAGE Publications: SAGE Business Cases Originals.
(9) Powell, D.J., Li, D., Smith, B. and Chen, W.N., 2025. Cultivated meat microbiological safety considerations and practices. Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety, 24(1), p.e70077.
(10) The Truth Behind Chicken Farming In The UK https://www.youtube.com/watch?v=aEdOmXMfXvg
(11) Trinidad, K.R., Ashizawa, R., Nikkhah, A., Semper, C., Casolaro, C., Kaplan, D.L., Savchenko, A. and Blackstone, N.T., 2023. Environmental life cycle assessment of recombinant growth factor production for cultivated meat applications. Journal of Cleaner Production, 419, p.138153.
(12) Van Huis, A., Van Itterbeeck, J., Klunder, H., Mertens, E., Halloran, A., Muir, G., & Vantomme, P. (2013). Ed ible insects: Future prospects for food and feed security (No. 171). Food and Agriculture Organization of the United Nations.
(13) Wei, J., Jiang, T., Ménager, P., Kim, D.G. and Dong, W., 2024. COP29: Progresses and challenges to global efforts on the climate crisis. The Innovation.